高桐先生はビターが嫌い。
…………


ショッピングモールを出て、釣りに向かったのは夕方になってからだった。

あれから三人でホラー映画を観たりして、時間が経つのは本当にあっという間で…。

元々映画を観る予定はなかったけれど、「時間つぶしに」と後藤先生が言って選んだのが、世界最恐と言われているらしいホラー映画だった。

ホラー系はあたしは別に苦手じゃないけど、観る前に高桐先生はめちゃくちゃ嫌がっていて、後藤先生にずっと説得されていた。

…苦手なんだろうな。

だからなのか、現在の釣りに向かう途中の車の中では、そのホラー映画の話を今もずっと高桐先生がしている…。



「ヤバかったじゃん。誰、ヤバくないって言った奴」

「いや、今のお前なら我慢できるだろと思って。でも面白かったろ?」

「面白いっつーか…凄いな。あの……CGが凄かった」

「お前さ、素直に“怖かった”って言いな?大丈夫、別にカッコ悪く…ないから、たぶん」

「いや、カッコ悪いんじゃんか結局、」



後藤先生はそんな話を高桐先生としながら、可笑しそうに笑う。

…確かに高桐先生は、映画が凄く怖かったんだろうけど…それでも、はっきりと「怖かった」とは口にしていない。

だけどその時、代わりに高桐先生があたしに聞いてきた。



「日向さんはどうなの?」

「え、どうって何がですか?」

「映画。怖くなかった?」



あたしはその問いかけに少し考えると、やがて答えた。



「…そりゃあ、ちょっとは」

「っ、だよね!」

「けど高桐先生、クライマックスとか目瞑ってませんでした?」

「!」



あたしがそう言うと、高桐先生は一瞬言葉を失ってしまう。

…図星なんだと思う。というか、絶対そう。

だってあたしは映画の最中に見てしまったのだ。

本当に怖かったクライマックスのシーンを、高桐先生はずっと目を瞑っていて見ていなかったのを。
< 168 / 313 >

この作品をシェア

pagetop