高桐先生はビターが嫌い。
「負けないから」
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「アイ、ちょっと宿題見せて」
「え、」
ゴールデンウィークが明けてから、数日後。
朝、教室に入るなり市川があたしに話しかけてきたかと思えば、いきなりそんなことを言われた。
ゴールデンウィークに突入するまでは…というか、春の遠足で遊園地に行ったあの日までは、ほとんどあたしらには話しかけてこなくて。
ずっと、日向とばかり仲良くしていたのに。
あの遊園地の日以来、市川は日向とはつるまなくなった。
あたしがそんな市川の言葉に頷いて宿題を見せると、それを見ていた他の仲間達が言う。
「え、市川宿題やってないんだ」
「だってメンドイしー」
「今までは結構マジメだったのに、そういうとこ」
そう言うと、「珍しいね」なんて。そんな言葉を口にする。
…だけど一方、そんな会話の隣で、あたしは。
ふいに日向に目を向けると、日向も市川の方を見向きもしない。
これは……もしかして、いやもしかしなくても、あたしの作戦が成功したんじゃない!?
あたしはその可能性に気がつくと、思わずニヤけそうな顔を普段通りに保ちながら、宿題を写す市川にさりげなく言った。
「…ひ、日向には見せてもらわないんだ?」
「!」
怒られる覚悟で、そう問いかけると。
一瞬だけ、ペンを進めていた市川の手がピタリと止まる。
まるで何かを考えるように…。
…だけど、それはすぐに再開して…
「…宿題見せてもらうくらい、誰だっていいじゃん」
と、吐き捨てるようにそう言った。