高桐先生はビターが嫌い。

…なに、これ。ほんとに成功してるわけ…?

そんな市川の反応にあたしがそう思って静かに期待していると、その様子を見た他の仲間達が市川に言う。



「え、なになにー?市川、この前までと全然違うじゃん」

「この前って?」

「だってほら、ちょっと前まではずっと日向と一緒にいたのにさ、」

「!」



仲間達はそう言うと、「何かあった?」ってストレートにそう聞いてくれるから。

思わずあたしも、市川に耳を傾ける。

…ここまでしたんだから、あたしの作戦、大成功してほしい。

そう思っていると…



「…別に」

「!」

「なんもないよ」



市川は、手元の宿題に目を遣ったまま、ただその言葉だけを口にした。

…なんもないわけ、ないじゃん。

しかし一方、そんな市川のそっけない反応に、やっぱり面白くないあたし達。

仲が悪くなったんなら、喜んで慰めるのにね。

今の市川には何故か、それは必要ないみたい。

そして市川はやがて宿題の答えを丸写しすると、あたしのノートを閉じて言った。



「…っし。ありがと、助かった」

「早いね」

「写すだけだから。ね、それより今日の放課後さ───…」



…日向のことは、本気で無視か…。

ちょっとあたしの考えとは違うな…。

もっとこう、前みたいに…さ、市川らしく…。

だけどそんなあたしの思いとは裏腹に、今は楽しそうに今日の放課後の予定を立てている市川。

みんなでカフェに行こうって。

…まぁ、こういう感じも久々だしね。

しばらくは様子見としよう。

あたしはそう思うと、やがてそんな市川の誘いに笑顔で頷いた。
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