高桐先生はビターが嫌い。
…………


そして夕食を今日も二人で食べて、その後の帰り際。

玄関で高桐先生を見送るあたしに、高桐先生が言った。



「…明日、出来たらグラタンが食べたい」

「ん、頑張ってみます」



高桐先生はたまにそうやってリクエストをしてくれては、笑顔で帰って行く。

リクエストとかしてくれると、何気に嬉しかったりする。

あたしが作る料理が、高桐先生の口にそれなりに合ってるんだって思えるのと、高桐先生が何を食べたがっているのか、たまに悩むから。

…けど。


“わかってる?奈央ちゃん。アイツ教師なの。俺ね、奈央ちゃんのことも確かに大事だけど、陽太のことも心配だから”

“……本当に“噂になるようなこと”だけは、もう少し控えて”

“約束!いま話したことは、俺と奈央ちゃんの約束だから。守ってね、お願い”



…高桐先生との、小さな幸せのあと。

ふいにあたしの中でいつまでも残る罪悪感。

後藤先生も、あたしにとって大切な存在…だから。

でも、止められないんだ。

高桐先生が離れて行っちゃうって考えると…寂しすぎて、死にそう。

あたしは高桐先生を見送ったあと、不意にそんなことを考えては小さなため息を吐いた。




…そんな玄関の前の外で。

一方の高桐先生も、独り悩んでいたとは知らずに…。


“唯香がどうかした?”

“…仲が良いんだなぁと思って…”

“まぁそりゃあ…友達だからね”



「…トモダチ、か」



……“元カノ”とか…言えるかよ…。
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