高桐先生はビターが嫌い。

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ある日の午後。

5時間目の日本史の授業中。

後藤先生が説明している最中に、あたしは先生の目を見計らってふいに市川に“メモ”を投げた。

ちなみに、市川の席はあたしの右斜め前。

市川は肘をついて後藤先生の説明を聞いていたけど、あたしがメモを投げるとそれに気づくなり小声で言う。



「…アイ、何これウザイ」

「まぁまぁ読んでみって」

「…、」



あたしが市川の言葉にそう言うと、市川は渋々そのメモを開く。

そしてそれを読むと、そこに何かを書き足してまたあたしに投げ戻した。



「!」



投げてくるのが急すぎたから、あたしは慌ててキャッチしてそれを開く。

そこに書いてある文字はなんと“OK”の文字。

あたしはそれを見るなり思わず自分の目を疑った。


だってあたしが書いて渡したそのメモの内容は…



「…っ、」



“え、マジで言ってる?ほんとにやるよ?”



そしてあたしがそう書いて、また市川にそれを投げようとすると…



「北島!」

「!」



不意に突然、それに気が付いた後藤先生に名前を呼ばれて。

思わずあたしがビックリして固まると。

そんなあたしのすぐ近くまで、後藤先生が近づいて来る。

そして慌ててメモを隠そうとするあたしに、容赦なく言った。



「今投げようとしてたの出して」

「…あ、や、それは…」

「何か投げてたよな?いいから出せ、」

「…」



怒ったような口調でそう言われて、あたしはちらりと市川の方に視線を遣る。

けど、一方の市川は知らん顔。

あたしは渋々そのメモを取り出すと、後藤先生の目の前に置いた。



「…放課後、職員室まで来なさい」

「…」

「…返事は?」

「……ハイ」



あたしが後藤先生の言葉に仕方なく頷くと、そのあと授業が再開された…。
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