高桐先生はビターが嫌い。
…………


その放課後。

渋々、失礼します…と声をかけて職員室の中に入る。

実際、後藤先生に呼び出しをくらってしまっていたのを忘れかけていた放課後。

だけど市川に言われて来てみれば、その奥にはパソコンと向き合う後藤先生の姿があった。

あたしが後藤先生に近づくなり先生はそれに気が付くと、早速パソコンを閉じて言う。

…ああ、めんどくさい…。



「お、きたな。サボられるかと思ったわ」

「…」



…サボればよかった。


そんな後藤先生の言葉にあたしがそう思っていると、後藤先生が言葉を続けて言った。



「じゃあ早速きくけど…」

「…」

「北島さん。この紙に書いてあるのは…しようとしてたのは事実なの?」



後藤先生はそう聞くと、先生から目を逸らすあたしを見つめる。

あたしがさっきの授業中にメモに書いたこと。

それは…



「…“今日、アイツの教科書にまた落書きしに行こ”って…誰のことかは……まぁだいたい想像はつくけども」

「…」

「しかもこれ投げたのも授業中。っつか、教科書に落書きってね北島さん。どの程度の落書きなの。先生に教えてくんない?今ここで」



そう言うと、後藤先生は。

「ハイ、」と、容赦なくあたしに自身の日本史の教科書を差し出して来る。

ここに書いてみて、と。

デスクに立てかけていた、ボールペンと一緒に。

あたしはそんな後藤先生の言葉を聞くと、言った。



「…マジで言ってる…?」

「や、マジで言ってる?って聞きたいのは実際俺の方だかんな。これね、勉強用の本。君らの大事な大事な教科書ね。それに落書きってどういう神経してんの?」

「…」

「いいからほら、書いてみて。“日向奈央さん”の教科書に、落書きしようとしてたわけだよね?」

「!」

「どんな落書きをしようとしてたのかな?」



そう言うと、後藤先生は半ば無理矢理にあたしの手にボールペンを持たせた。
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