高桐先生はビターが嫌い。
「…っ、」
…何で…落書きしようとしてた奴、わかってんの。
あたしはそう思うと、ボールペンを持ったまま後藤先生に言う。
「…ってかさ、」
「…?」
「…あたしは被害者だよ、先生」
「…ん?」
不意にあたしがたまらずにそう言うと、後藤先生はあたしのそんな意外な一言に、あたしを見遣る。
被害者?と。
あたしはその後藤先生の反応を見ると、先生のデスクにボールペンを置いて、言った。
「市川。元はと言えば市川が日向に嫌がらせをしだして、あたしらはその手伝いだったの。
だけどちょっと手伝わなかったらその標的が次に回ってくるかもしれないのはあたしじゃん。
それなのに市川は…」
「…、」
「あたしらを使うだけ使って、でもその日向と仲直りしたら急に素っ気なくなって。
何それ!って。酷いと思わない!?だから先生、被害者はあたしだよ!」
あたしはそう言うと、ため息交じりに後藤先生から目を逸らす。
そして一方、そんなあたしの言葉を聞いた後藤先生は、何かを考えて…
だけどまたあたしに目を向けると、言った。
「……ってことは」
「…」
「北島さんは…本気で、落書きをする気はなかった…ってこと?そういうメモを書いたりして市川さんの様子を見てたってことだ?」
後藤先生はあたしの言葉を解釈してそう言うと、「合ってる?」なんて首を傾げる。
…その問いに、頷くあたし。
本気で日向の教科書に落書きする気はなかった、と。
それが目当てなわけじゃなかった。
でも、後藤先生はそんなあたしに小さく息を吐くと、言う。
「…まぁ、市川さんも、散々他の先生に怒られて、注意された上でああやっておさまってるわけだから」
「…」
「それをわかってあげないと。わけを聞いてあげるのも友達だよ」
「!」
「…まぁとにかく。理由は何であれ授業中にこんなメモを飛ばしたりしないこと。わかった?」
…その言葉にあたしが渋々頷くと、やがて後藤先生は不意に笑顔になって、「ハイ、帰ってよし」と一言そう言った。
その言葉に、やっと職員室から解放されたあたしは…