高桐先生はビターが嫌い。

「!」


頭を下げて、目を瞑っていたら。

ふいに、上から振って来た市川のそんな意外な言葉。

その言葉に、思わずビックリしてあたしが頭を上げると、市川が言葉を続けた。


「…確かに、尾行されてた時は全然気づかなかったけど、後でちゃんと知ったよ。アイがしてたこと」

「…そんな。なんで…」

「日向に聞いた。日向は高桐先生から聞いたって」

「!」

「高桐先生、心配してたみたいなんだ。市川さんの、こんな噂が流されてるよって。アイから聞いた、とも言ってたらしいし。それでピンときたよ」



ああ、聞かれてたなぁって。

市川はそう言うと、不意にあたしの方を見遣って「あんたやること下手すぎ」と笑う。

その言葉を聞いて、あたしは安心したような…でも少し恥ずかしい気もするような…。

少し複雑な気分になりながら、あたしはその時呟くように市川に問い掛ける。



「じゃあ…」

「?」

「じゃあ、許してくれる?あたしがやったこと」



あたしはそう聞くと、顔を上げて市川を見る。

今となっては物凄い罪悪感。

すると、そんな言葉に市川は…



「いや、許しはしないかな。…たぶん」

「!」

「本当はあたし…自分からカッコよく、高桐先生に告白…したかったのに。結果はどうであれ」

「…あ、ごめん…そうだよね」



そりゃあ、そうだよね…。

だけどあたしがそう言うと、また市川が言葉を続けて言った。



「でも、今回はあたしも悪かったから。おあいこ」

「!」

「…だから、もう謝らなくていいよ。あたしももっと、アイのことも大事にする」



市川はそう言うと、



「…じゃあ、一緒に帰るか」



なんて、また無邪気に笑って見せた…。
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