高桐先生はビターが嫌い。
…………


「じゃあ、おやすみ」

「はい。また明日」


そして、夕飯を食べ終わったその後。

今日も玄関で、高桐先生を見送るあたし。

後藤先生から言われた言葉をずっと思い出しては、こうやって一緒に夕飯を食べることをもう断ろうかと考えるけれど…。


「焼きそば、まだ余ってたりする?」

「そうですね、ちょっと作りすぎたんで、明日のぶんもありますよ」

「じゃあ、明日はオムそばがいい!」


…なんて。

高桐先生から笑顔でそうやってリクエストをされると、今日もまた何も言えなくなる。

その上逆に言ってしまうのは……じゃあ、頑張って作ります。…って全然違う言葉。

そしてあたしが頷くと、高桐先生はあたしの部屋を後にしてしまった。


急に独りになって、静かになった玄関。

その時…遊園地からの帰り道、で。

市川に北島さんのことを話した直後のこともまた…思い出す。



「でね、もう一つ…市川に、話さなきゃいけないことが…あるんだけど」

「…?なに?」

「あたし…あたしね、本当は……高桐先生のことが、好きなの」



…そう言った時は、「もう絶交しよ」とか、いろんなことを言われる覚悟だったけれど。

一回、同じ過去を繰り返したからなのか…市川の顔は、一瞬曇ってしまったけれど…

その後はっきりと、言われた。

夕焼けの下で、市川に。



「…そっか。でも、なんとなくね。そんな予感はしてたんだ」

「…ごめん」

「じゃあもう、お互いに遠慮はナシね。あたし…」

「…、」

「負けないから」



…あたしはその時のことを思い出すと、やがてリビングへと戻った…。

あたしも…負けたくない…。
< 187 / 313 >

この作品をシェア

pagetop