高桐先生はビターが嫌い。









日向さんの玄関を後にして、一息吐いて…

なんとなく、部屋には入らずにそこから見える夜空を見上げる。

今日はずっと晴れていたせいか…星がよく見える。

なんて、そう思っていると…



「…あれっ。陽ちゃん」

「!」



不意に、俺達の部屋の中から。

ガチャ、とドアを開ける音が聞こえて…そうかと思えば。

唯香が、部屋から出てきた。

きっと、今日も夕飯を作ってくれていたんだろう。

本当は俺のぶんも…だったけど、この前電話で断ったから。

唯香は俺の存在に気が付くと、そのまま隣にやって来て言った。



「どうしたの?部屋に入んないの?」

「…唯香こそ」

「あたしは今から帰るから」



そう言うと、「わぁ、星がキレイだね」なんて…俺が思っていたことと同じ言葉を口にする。

でも、そうかと思えば…ふいに俺の方を見遣って言った。



「…あ、陽ちゃんもしかして焼きそば食べてきた?」

「え、なんでわかんの」

「だってなんか、そんな匂いするから」



でも良い匂いだね、なんて…昔と同じ笑顔を浮かべる。

至近距離で目が合うから、咄嗟に逸らした俺って…変わらないのかな…。

そんなことを思っていると、そのうちに唯香が言った。



「…じゃあ、あたし帰るね」

「ん。……あ、送ってく?」

「ううん、平気」

「…そっか」



唯香のその返事に、俺はそう呟いてまた空に目を戻す。

でも、その瞬間…唯香が…少し離れたところで、言った。



「……ねぇ陽ちゃん」

「?」
< 188 / 313 >

この作品をシェア

pagetop