高桐先生はビターが嫌い。
日向さんの玄関を後にして、一息吐いて…
なんとなく、部屋には入らずにそこから見える夜空を見上げる。
今日はずっと晴れていたせいか…星がよく見える。
なんて、そう思っていると…
「…あれっ。陽ちゃん」
「!」
不意に、俺達の部屋の中から。
ガチャ、とドアを開ける音が聞こえて…そうかと思えば。
唯香が、部屋から出てきた。
きっと、今日も夕飯を作ってくれていたんだろう。
本当は俺のぶんも…だったけど、この前電話で断ったから。
唯香は俺の存在に気が付くと、そのまま隣にやって来て言った。
「どうしたの?部屋に入んないの?」
「…唯香こそ」
「あたしは今から帰るから」
そう言うと、「わぁ、星がキレイだね」なんて…俺が思っていたことと同じ言葉を口にする。
でも、そうかと思えば…ふいに俺の方を見遣って言った。
「…あ、陽ちゃんもしかして焼きそば食べてきた?」
「え、なんでわかんの」
「だってなんか、そんな匂いするから」
でも良い匂いだね、なんて…昔と同じ笑顔を浮かべる。
至近距離で目が合うから、咄嗟に逸らした俺って…変わらないのかな…。
そんなことを思っていると、そのうちに唯香が言った。
「…じゃあ、あたし帰るね」
「ん。……あ、送ってく?」
「ううん、平気」
「…そっか」
唯香のその返事に、俺はそう呟いてまた空に目を戻す。
でも、その瞬間…唯香が…少し離れたところで、言った。
「……ねぇ陽ちゃん」
「?」