高桐先生はビターが嫌い。
「俺、ご飯食べたあとすぐ行かなきゃ」
「え、どこにですか」
「唯香が来いって。何か今、篠樹のことで悩んでるみたいなんだよね」
「!」
高桐先生はそう言うと、あたしに向かって両手を合わせる。
…あ。だからさっき、高桐先生はあたしに言ったんだ。
後藤先生には気をつけてって。
……え、でも、それって…。
あたしはふいにそう考えながらも、すぐに顔を上げて高桐先生に言った。
「…そうですか。それなら、仕方ないですね」
「ごめんね。あ、でもご飯の用意は急がなくて大丈夫だから」
「…、」
高桐先生はそう言って、いつも通りに笑ってくれる。何の変りもない。
でも…なんかやっぱり、行ってほしくないなぁ。
後藤先生の彼女さんだから大丈夫なんだろうけど…でも、不安…だな。
あたしはそう思いながらも、ふいにまた、高桐先生の方に目を遣って…。
けど、「でもなぁ…」とまた顔を伏せる。
…「行ってほしくない」なんて言える?
たしかに、卒業後には付き合おうって約束はしたよ。
でも、今は違うわけだし…それに、高桐先生を見てると…そんなやましいことは無さそう…だし。
あたしの考えすぎ…かなぁ。
あたしはそう思うと、「とりあえず今は何も聞かないでおこう」と黙ってみる。
その一方で、まだ、困ったままの表情を浮かべる高桐先生には気づかずに…。
“…が、いいよ…”
“…え、”
“…やっぱ、陽ちゃんがいいよ…”
…独り、静かに思い出していたのは、背中を追いかけてしまったあの夜のこと。
フラれたのは、俺なのにな…。
何故か冷たく突き放すことは、出来ない…。