高桐先生はビターが嫌い。
一方、その電話の向こう。
賑やかな居酒屋に戻って来た唯香。
涙を拭いて、その場に戻れば。
既にお酒を飲み始めている男女5、6人が、そこにいた。
「ちょっとー。もう始めちゃってんの、」
「当然。彼氏と電話してる奴は待たない主義」
「ごめんってー。でも彼氏じゃないからぁー」
唯香はそう言うと、同い年くらいの男の隣に腰かける。
今日は、高校時代の友達同士で飲み会。
“いつもと違うスマホ”を鞄に仕舞いながら唯香が「元カレと電話していた」ことを告げると、その女友達が言った。
「はー、やっぱモテる奴は言うことが違うねー」
「まぁね。彼も元彼も、あたしにゾッコンだし」
「お、複雑なリアル三角関係?」
「そうね。まぁ、ちょっとメンドーな女が現れてるけど」
唯香はそう言うと、注文していたビールをぐいっと飲み干す。
その姿に、友達が「相変わらずの良い飲みっぷりね」と笑う。
…まぁね。こんな姿、篠樹くんも陽ちゃんも知らないけどね。
すると、そんな唯香にまた友達が言った。
「それより、誰なのそのメンドーな女って。さすがの唯香も敗北寸前?」
そう言って、可笑しそうに笑うから。
唯香は2杯目のビールを注文したあと。その友達に言った。
「ばーか。負けるわけないでしょ、このあたしが」
「おー、強気だねぇ」
「篠樹くんも陽ちゃんも渡さないわ。どんな手を使ってでも奪い返してやるから」
それに、陽ちゃんの性格なら奪い戻すなんて楽勝だし。
あたしがそう言ってほほ笑むと、友達はみんな「敵に回したくないタイプだわ」って笑った。
…男なんて、あたしみたいに可愛ければ涙見せるだけでみんな落ちるのよ。
残念ね、奈央ちゃん。
ほんとバカな女。
陽ちゃんを全て知り尽くしているのは、このあたしだから…。