高桐先生はビターが嫌い。
それを思い出すと、今更なんだけど少し不安に思う。

…今こうやって、後藤先生と2人きりでいて大丈夫なのかなぁって。

だからあたしは、後藤先生に言った。



「…唯香さん、不安になったりしないですかね?」

「…、」

「後藤先生がこうやってあたしと2人で出かけてて」



あたしはそう言うと、何気なく隣の後藤先生に目を遣る。

…不安だから、「大丈夫」って笑ってそう言ってほしくて言ったけど。

後藤先生は何故か、少しだけ間を置いて。

次の赤信号で一旦止まると、あたしに言った。



「…まぁ、大丈夫なんじゃね?」

「!」

「俺と奈央ちゃんは、先生と生徒だし。それはこの前も唯香に言ったから、たぶん理解してんだろ」



そう言うと、信号が青になって、再び車を走らせる。

…そっか。

大丈夫、なのか…でも、



「…じゃあ、信頼…してるんですね。お互い」

「…良く言えば、そうなのかな」



…良く言えば。

じゃあ、悪く言うと…



「でも、裏を返すとさ…」

「…」

「正直、実はどうでもいいんじゃね?って、思う時もある、けどな」

「え、」

「…っし。着いたよ」

「!」



後藤先生が、いつもより少し低い声でそう言ったその瞬間。

その時丁度車はいつのまにか目的地のお店に到着していて。

大きなショッピングモール。

あたしがその言葉を気にした途端に、後藤先生がぱっと話を変えた。



「っつか、結局この前と同じとこ来ちゃったけど…いいよね?何でもありそうだし」

「…そうですね」



どうでもいい、って。

なんか…いつもは平気そうな後藤先生の顔が、さっきは一瞬…曇って見えたような…。
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