高桐先生はビターが嫌い。
「あのっ…」
「何買うかなー。アイツ欲しい物とか基本ねぇからな。あ、奈央ちゃんは何買うかって考えてる?」
「…す、スニーカー…とか」
「お、いいじゃん。アイツ今履いてるスニーカーボロボロだよ」
プレゼントしたら喜ぶよ。
なんて、さっきの曇った顔がまるで嘘だったかのように、そう言って笑う後藤先生。
…ううん、違う。嘘じゃない。さっきほんとに…
「俺は何にしようかなー。去年は何やったっけ」
「…」
「…あ、イヤホンだ!壊れたって言っててそれで、」
「…、」
…悩んでるのは、結局お互いに、なんだ。
あ…でもそりゃそうか。
どっちか片方が悩んでたら、必然的にもう片方も悩んでたりするって…聞いたことあるし。
…高桐先生は、「篠樹には気を付けて」って言ってたけど…。
…しかし、そうやって独り考えていると…
「…聞いてる?」
「!」
…その時。
ふいに後藤先生がそんな問いかけとともに、あたしの顔を覗き込んできた。
その声と顔の近さにあたしがビックリすると、後藤先生が言う。
「…奈央ちゃんは、気にしなくていいよ」
「?」
「ごめんな。きっと今不安にさせてるけど、俺が大丈夫って思ってるから、奈央ちゃんもそんな不安がらなくていいよ」
せっかくだから楽しもう、なんて。
後藤先生はそう言うと、いつもみたいに笑ってくれる。
…こんなに考えちゃうのはきっと、こうやって後藤先生と一緒にいることに対しての不安…だけじゃなくて。
あのせいも、あるよね。
高桐先生が、唯香さんに会いに行った日の…複雑な感じ。不安。嫉妬。
それを考えると、後藤先生には…はっきりと、「大丈夫」って言って…ほしいのに。
「俺達はお互いに信頼しきってるから」って。
あ…でもそれだと、唯香さんだって高桐先生のことを電話で呼び出したりしないのか。
だけど、モヤモヤ考えちゃうのもよくないから。
あたしはとりあえず、今日は後藤先生の言う通り楽しむことにした。
…夕べの“空白の時間”が、気になったまま…。