高桐先生はビターが嫌い。
…………


「楽しかったね」

「ハイ。かっこいいスニーカーも買えたんで、もう満足です!」



そして、空が薄暗くなってきた頃。

あたしと後藤先生は、ショッピングモールを後にして、今はマンションに帰る車の中。

あれから不安を一旦忘れてとことん楽しむことにしたあたしは、とにかく高桐先生の誕生日プレゼント選びを頑張ってみた。

後藤先生に、高桐先生の靴のサイズを教えてもらって、好みの色とか、形とか…

それに、ラッピングも、してもらったなぁ…。

喜んでくれるといいなぁ。

そう思いながら、後藤先生と他愛のない会話をしながら…マンションに向かうこと数時間。

ようやくマンションが見えてきて…その時後藤先生がふと口を開いて言った。



「すっかり暗くなったねー」

「そうですね」

「でも、夕飯前には帰れてよかったよ。あ、奈央ちゃん昼間に唯香のことで心配してたみたいだけど、安心して。俺ちゃんと、今夜唯香と会う約束してるから」

「あ、そうなんですか。じゃあちょっと安心しましたよ」

「うん。ごめんね、昼間は。でも大丈夫、ちゃんと大事な彼女だから」



…そういうこと、言われてみたいな。

出来たら高桐先生から。

しかし、あたしが後藤先生のそんな言葉に対して静かにそう思いながら…一方の後藤先生は車を駐車したその直後。

ようやく車から降りようとしたその瞬間…

後藤先生のスマホに、一件の着信が…かかってきた。



「…ハイ?あ、唯香?」

「!」

「…うん。昼間はちょっとでかけてて。丁度今からそっちに………え、会えない?」

「!」

「…あー…そうなんだ。じゃあ仕方ないか。…ううん、平気。頑張ってね」



後藤先生は、車から降りながらそう言うと。

ため息混じりにあたしを見遣る。

そして不満そうに、あたしを見るから。



「…唯香さん、会えないんですか?」



たまらずそう聞けば、後藤先生が不満そうな顔をしたままあたしに言った。



「…そ。仕事だって」
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