高桐先生はビターが嫌い。

「うわ…残念ですね。仕事なら仕方ないですけど」

「まぁ、明日に変更になったからいいんだけどね、別に」



…後藤先生はそう言うと、車のドアをロックして、マンションの中へと向かっていく。

その背中をあたしは追いかけながら、途中、郵便受けの中を当たり前のようにチェック…して。

だけど今日も何も来ていなくて、思わず小さくため息を吐いたら。

エレベーターの前。

後藤先生と一緒にそれを待つあたしのスマホが、小さな音を立てた。



「!」



…ライン?誰だろ。

今はまだ夕飯前だし、もしかして高桐先生かな、なんて…思ってスマホの画面を見ると。

その相手はやっぱり高桐先生で。

画面には、こう表示されてあった。



“ごめん!今日は夕飯一緒に食べられない!”



本当にごめんね、と。

その理由は、書いてないからわからないけど。

その文章を見た途端、あたしは嫌な予感が…した。



「奈央ちゃん」

「!…え」

「乗らないの?」

「…あっ」



だけど、その時。

ちょうどエレベーターが一階に到着して。

その中に一足先に入った後藤先生が、不思議そうにあたしに声をかけてくる。

その声にあたしはすぐに同じその中に入るけれど…

不安は、残ったまま…



「…っ…」



なんで?

いや、普通に「夕飯がいらない」なら、そんなに不安にはならない。

だけど今、不安なのはきっと…

ついさっき、後藤先生のスマホに…唯香さんが今日「会えない」って連絡をしてきたから。

…いや、でも、唯香さんは仕事だって言ってたみたいだし。

気にすることは…何も、ない。

心配なんて…いらないはずなのに。


なのに…タイミングが、良すぎじゃない?

ねぇ、先生。
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