高桐先生はビターが嫌い。

自分の名前を“アイリ”と偽っていたこと。

本当の名前は“日向奈央”だということ。

しかも年齢まで偽って、高桐先生を騙していたこと。

…全てを話した。


そして、それを話し終えると、後藤先生が納得したように言う。



「なるほどねー。あ、じゃあ、アイリ…奈央ちゃんが嘘を吐いていたのは、家の場所だけじゃないってことだ?」

「…ハイ」

「あー…まぁ確かにそれは、“助けて下さい”とも言いたくなるよな」



後藤先生はそう言うと、「っつかアイツ、だせーな」と意外にも次の瞬間吹き出す。

高校生相手に簡単に騙されんのかよ、と笑い出すから、一方のあたしは少し腑抜けた声をだしてしまった。



「へ…」

「や、だってアレだよ。ウチの陽太、高校生に何から何まで騙されてんだよ今。確かに昔から騙されやすい奴だったけどなー」



そこまでとはなぁ。

そう言うと、また思い出したように笑う後藤先生。

すると歩きながら、ふいに良いことを思い付いたようにあたしに言った。



「あ、じゃあさ、ネタばらしの時に動画撮ってきてよ」

「え、動画…ですか。ってかネタばらしって」

「うん。他の先生にバレないようにさ、こっそり。陽太、結構アイ…奈央ちゃんのこと気に入ってるから、相当ショックがでかいと思うんだよねぇ」



後藤先生は悩みまくるあたしとは真逆にそう言うと、ネタばらしをした時の高桐先生の反応を想像してはまた笑う。

ってか、“ネタばらし”って。ドッキリじゃないんだから。

だけど意外にも笑ってくれた後藤先生に安堵しつつも、あたしは先生に言った。



「ま、真面目に相談に乗って下さいよ」

「あ、ごめんごめん。でも、別にそんな悩まなくても大丈夫なんじゃないかな?」
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