高桐先生はビターが嫌い。
そう言うと、高桐先生は。

少し驚くあたしの頭に右手を遣って、髪を乱すようにぐしゃぐしゃとそれを撫でる。

…急に、そうやって雰囲気を崩すから。



「な、何するんですかっ」

「や、不安そうな顔してたから」

「そりゃあ…不安にもなりますよ」

「…」




拍子抜けした、というか…。

だけど…後藤先生に、そんな過去があるなんて知らなかったし。

ちょっと、ショックだな…いろいろ。

あたしがそんなことを思っていたら、やがて高桐先生が言った。



「…ま、でも、さすがに俺と日向さんが卒業後に付き合うこととかは言ってないし、篠樹は日向さんのこと、何だかんだでちゃんと教師と生徒って割りきってそうだから、たぶん心配はいらないんだろうけどさ」

「…ハイ。…気をつけます」

「うん、一応気をつけといて」



そう頷いて、「じゃあ、またね」と。

笑顔で、隣の部屋に帰ろうとする高桐先生。

あたしはそんな先生に、笑顔で手を振り返そうとするけれど…。

…だけどやっぱり、考えてしまう。



“…アイツ…すぐ奪うから。親友(ヒト)の彼女”

“唯香もそうだった“

“うん。唯香、も”



「…っ、」



あたしが…不安、だったのはそっちじゃなくて。後藤先生じゃなくて。

いや、不安というよりかは…やっぱり少しショックな気持ちの方が大きい。

だからあたしは、気がつけば…



「っ…待って下さい!」

「!」



帰ろうとする高桐先生の服を、きゅっと掴んで、いきなり引き留めてしまった。



「…どした?」



あたしの突然の言動に、首を傾げる高桐先生が、不思議そうにそう問いかけてくる。

…可笑しな子、かもしれない。

けど、それでもいい。そんなのが気にならないくらい、あたしは…。
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