高桐先生はビターが嫌い。
「…最後に、一個だけ…ワガママ言ってもいいですか?」

「ん、どした?なんか珍しいね。や、別に全然いいんだけどね」

「先生…あたしにキスして下さい」

「!?」



不安な数だけ、高桐先生に触れてほしくて。

目に見える愛がほしくて、気がつけば引き留めて、そんなお願いをしていた。

不思議…今まで自分から、男の人にこんなこと…言ったことないのに。

するとあたしのそんな突然の言葉に、高桐先生が驚いたような声をあげた。



「え…き、キッ…!?」

「あ…いきなりこんなこと言って困らせてるのはわかってます。でもあたし、先生のことが好きだから…」

「!」

「ちょっとでもいいから、もっと先生に近づきたい…」

「…、」



あたしは恥ずかしさで高桐先生の目を見ずにそう言うと、先生の服を掴んだまま、今度は先生の肩に頭を預ける。

…自信がない。

「キスして」の言葉は、裏を返せばそんなあたしのカッコ悪い本音。

高桐先生の性格からして、表に出さないのはわかってる。

わかってるけど、はっきり感じたいんだ。

高桐先生があたしのこと、今まで付き合ってきた彼女達より一番大事だって。

だけどあたしのワガママに、まだ戸惑ったままの高桐先生が言う。



「…で、でもほら…今日はもう遅いし」

「キスくらいすぐじゃないですか」

「けど、キスっていうのは、ちゃんとお付き合いをしている恋人同士が、愛を確かめ合うためにする…ものでしょ。俺たちはまだ…」



付き合う予定を立てただけだし。

高桐先生はそう言うと、「今日はもうおやすみ」ってあたしに優しい笑みを向ける。

…先生…



「…何で?あたしは先生好きですよ」

「そりゃあ俺もっ…!」

「……高桐先生?」



俺も…と、一番聞きたかった言葉を言いかけて、だけど言葉を詰まらせてしまう高桐先生。

黙り込んで、何かを考えてしまう。

…そんなに今はダメなことなの?

しかし、あたしがそんな高桐先生を前に、そう思ってうつ向くと…
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