高桐先生はビターが嫌い。
「…じゃあ、」
「!」
「したら、すぐ忘れて?」
ふいに、上からそんな言葉が降ってきて、あたしは「え、」と顔を上げる。
その上げた直後に…
「…っ!」
先生の顔が近づいてきて。そうかと思えば。
唇に触れると思っていたそれは、何故かあたしの上の方にいって…優しく、触れた。
「…おでこ」
「…」
唇に、じゃなくて。
高桐先生がしたのは、あたしのおでこにキス。
いや、確かに、「口にして」とは言ってない。
言ってないけどさぁ…。
「…先生、あたし口にキスが…いいです」
「そ、れはっ…!」
「…」
「…しょうがないじゃん。俺だってこれが精一杯なんだよ」
あたしが不満げに呟くと、目の前で真っ赤な顔をした高桐先生が、あたしを見ずにそう言う。
…先生、彼女さんは何人かいたみたいだけど…キスはあんまりしたこと…ないのかな。
あたしが思いきって目を瞑り、高桐先生の方に顔を向けるけど…やっぱりそれ以上できないらしい高桐先生は、代わりに正面からあたしを抱きしめてきた。
「…ごめん。でもこれでも好きなんだよ」
「…せっかくキス顔したのになんか恥ずかしいです」
「ん、でも、その顔もかわいかった」
「!」
そう言うと、高桐先生はパッとあたしから体を離して、至近距離で微笑む。
そしてもう一回、今度は少し強めにあたしを抱きしめると…
「…じゃあ、また明日ね」
「ハイ、」
「明日の晩ごはんからは、また一緒だからね」
「ハイ…待ってます」
そう言って、あたしの部屋を後にした。
でも本当に、キス…したかったな。
やっぱり高桐先生は、ちょっとずるい…。