高桐先生はビターが嫌い。
「…ハイ」



…そういうところ。

唯香さんのそんな何気ない言葉を耳にして、小さく反応して…でも何でもないフリをする。

高桐先生のぶんも、作ってるんだ。…そりゃ、そうか…。

だけどあたしは、その複雑な心を奥底にしまい込んで言った。



「じゃ、じゃあ連絡先交換しましょうよ。せっかくだから。あとでラインで感想送りますから」

「え、本当?嬉しい、」



そう言うと、あたし達はお互いにスマホを取り出して、早速連絡先を交換する。

…だけど、一瞬。ほんの一瞬。



「…あ、ちょっと待って」

「?」



唯香さんのスマホから見えたのは、新着のラインのメッセージ。

「高桐陽太」って、表示されてあったから。

唯香さんはそのメッセージに気が付くと、一旦、高桐先生に返信の文字を打つ。

…何の、連絡…?



「…ん、おまたせ」

「!」



相手の名前しか、見えなかったけど。

…中身までは……何てかいてあったんだろ。

あたしはそう思いながら、モヤモヤしながら…だけどその後は唯香さんと連絡先を交換して、チェリーパイのお礼を言った。



「…本当にありがとうございます。今度あたしも何かお礼をしますね」

「ううん、気を遣わなくて大丈夫。あたしはこれが趣味だから」

「!」

「…チェリーパイはね、篠樹くんが大好きな食べ物なの。…喜んでくれるといいなぁ」



そう言うと、何故か。

唯香さんの顔が、ふっと曇ったように…見えて。

…あれ?今…

なんて、思って心配しかけたら…



「じゃあね、あたしそろそろ帰らなきゃ」

「!」
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