高桐先生はビターが嫌い。
…………


『ごめん。今日はちょっと遅くなる』

「…、」



そんなラインを高桐先生から受け取って、数時間待って。

スマホとにらめっこ。

唯香さんが作ってくれた美味しいチェリーパイを食べながら、何度も何度もスマホに目を遣って。

連絡が来ていないか、確かめる。



「…何してるんだろ…先生」



いや、たぶん、仕事…なんだろうけど。

いつも帰ってくる時間と比べて…今日は3時間以上は遅い。

もう来るかな。それとも、まだもう少しかかるかな。

なんて、そう思いながら待っていると…



「…!」



その時ふいに、玄関でチャイムが鳴って。

あたしはすぐに、玄関まで急ぐ。

ドアの覗き穴を覗いて見ると、やっぱりそこにいるのは高桐先生で。



「先生っ…」



そう言って、勢いよくドアを開ければ。

目の前には、少し疲れた様子の高桐先生が…立っていた。



「ただいま。ごめんね、遅くなって」



高桐先生はそう言うと、あたしと目が合うなりそれは笑顔に変わって。

いつものように、玄関で靴を脱ぐ。

疲れたーって、言ってるけど…何かそんな高桐先生に…一方のあたしはちょっと違和感。


…あれ?

高桐先生、いつもは通勤の鞄も一緒に持って帰ってくるのに。

今日は何故か手ぶら。

一旦、自分の部屋に戻ったとか?そういえば、ネクタイもしていない。



「…今日は鮭のクリーム煮に挑戦してみたんですよ」

「お、すごい。美味しそうだね」



…まぁ、そんな日もある…か。

あたしはそう思いながら、キッチンで高桐先生の夕飯を温めた…。
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