高桐先生はビターが嫌い。





「…唯香がさ」

「え?」



それからしばらくして、高桐先生がふと口を開いたのは。

夕ご飯をほとんど食べ終えた後だった。

それまでは2人で他愛のない会話をしていたけれど、高桐先生がふいに話題を変えた。

…唯香さんが…?

あたしはその名前が耳に飛び込んできた途端、また少し不安になる。

もしかして…さっき、唯香さんあてにきていたラインが何か…。

そう思っていると。



「篠樹と喧嘩したらしくて」

「え、そうなんですか。…でも、それが何か…」

「や、意外と喧嘩ばっかしてるから…あの2人」



高桐先生は、そう言うと。

晩ごはんを完食してくれて、「ごちそうさまでした」と手を合わせる。


…そうなんだ。

それは確かに意外。

あ、っていうか、だから唯香さん…さっき来てくれた時…少し表情が曇ってたんだ…。

あたしがその時のことを思い出していたら、そのうちにまた高桐先生が言う。



「でさ、“別れたい”って言いだすから。それはさすがに困るし」

「え、唯香さんがですか?後藤先生と?」

「そう。まぁこれも…わりとしょっちゅうなんだけどね」



でも、わかってても首、つっこんじゃうんだよね。

高桐先生はそう言うと、少し顔をうつ向かせて笑う。

…確かに別れたがるのにはびっくりだけど…でも本当に、その話が何か…。

…いや、あたしがなるべく聞きたくないのも…あるんだけど。

そう思っていたら、高桐先生が言った。



「…で、さっき話聴いて…説得してきた」

「え、」
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