高桐先生はビターが嫌い。

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「…どうしたの?ぼーっとして」

「えっ…あ、」


そして、マンションでまさかの再会を果たしてから、その数日後。

今日は、3月最終日。

オシャレなレストランで食事をしていると、ふいに一緒に来ている“リュウ君”が不思議そうにそう言って、あたしの顔を覗き込んできた。



「料理…あんまり美味しくない?」



あたしの様子に気が付いてしまったらしいリュウ君はそう問いかけると、どこか不安そうな顔をする。

リュウ君は、24歳のごく普通のサラリーマン。

あたしと出会った頃は彼女がいたけど、先月別れてしまったらしい。

それからは、けっこう何度も食事に誘われているけど…あたしはあくまで付き合うつもりはなくて。

あたしはそんなリュウ君を見ると、慌てて首を横に振って言った。



「っ、ううん!すっごく美味しい!」

「そう?良かった、」

「…」



…とはいえ、手元にあるのは、さっきから全然進んでいないお魚料理。

何度か、こういうオシャレなレストランには連れて行ってもらえているけど、ほんと、慣れないんだよなぁ。

大人も大変だ、


そう思いながら、春休み明けのことを心配しつつ、でも、「考えたらキリがないか」と目の前の料理をとにかく堪能することにする。

それでも、リュウ君との会話の中で、学生の頃の思い出話や、春らしいワード等がでてくると、やっぱり考えずにはいられなかった。


後藤先生は…心配しなくて大丈夫って言ってたけど…。

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