高桐先生はビターが嫌い。
また、口を開いて問いかけた。



「…ちょっと、迷ってるんですけど」

「?…どした?」

「実は…今度合コンに誘われてて」

「!」

「…市川に」



そう言うと、何て返事が返ってくるか…ドキドキしながら高桐先生の言葉を待つ。

だけど、高桐先生は…



「…そっか。なんか青春、だね」

「!」

「俺の高校の時は合コンとか誘われなかったなー」



そう言って、変わらずにニコニコと笑顔を浮かべたまま。

特に気にして無さそうに、そのまま帰ろうとするから。

あたしはそんな高桐先生に、言った。



「え、行ってもいいんですか?」

「…、」



あたしがそう聞くと、高桐先生が少し考えた後言う。



「…ほんとは、教師として止めるべきなんだろうけど」

「?」

「“先生”は信じてるから。日向さんのこと」

「!」



そう言って、ぽん、とあたしの頭に優しく手を遣って。



「じゃあね」



おやすみ、と。

あたしの部屋を出て行く高桐先生。

その様子に、あたしは少しだけショックを受けて…。

…平気、なんだ…。



「…ちょっとくらい、止めてほしかったな…」



また、独りになった静かな玄関。

あたしのそんな声だけが、響いた…。
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