高桐先生はビターが嫌い。
…………
「じゃあ、またね」
「うん。ありがとう。楽しかったよ」
その後。レストランを後にして、その帰り道。
車で来ていたリュウ君に、あたしは例のアパートまで送って貰った。
リュウ君に手を振ってバイバイしたあと。
アパートの中に帰って行くフリをして、車が完全に見えなくなったのを確認してから、あたしはため息交じりで本当のマンションに向かう。
…はぁ。疲れた。
思わずそう呟きながら、車の椅子に座っていたせいで、少しシワになってしまったワンピースのスカートを軽く直す。
大人に見えるように精一杯オシャレしているけど、実はけっこう窮屈だ。早く帰って脱ぎたい。
…それにしても、あのレストラン。
デザートは結構美味しかったなぁ。
他は…お肉は美味しかったけど、他はやっぱり大人の味だった。
本当に20歳になったら味の良さっていうのがわかるんだろうか。
…早く帰って早く寝よ。
…すると、そう思いながらとぼとぼと歩いていたら…
「あれっ?アイリちゃん!」
ふいに、コンビニの前で。
あたしは、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
…こ、この声って、もしかして…。
そう思って、振り向けば。
コンビニの前には、高桐…先生がいた。
「た、高桐…くん」
思わず、“先生”と言いかけて“くん”に変える。
実はあのマンションで二度目の出会いを果たしてから、彼とこうやってまともに会うのは初めてだった。
いや、あたしが勝手に高桐先生…を、避けていただけなんだけど。