高桐先生はビターが嫌い。
…そりゃあ、市川にとったら嬉しいかもしれないけどさ。

あたしは一応、この学校を卒業したら高桐先生と付き合う約束をしてるのに。

っていうかね、そうだよ。

まだ付き合ってるわけじゃないのに、“別れろ”とかいう文字を送りつけてくるのもおかしいと思う。

あたしはそう思うと、スマホを制服のポケットに仕舞いこんだ。

しかし、仕舞いこんだ瞬間、市川が言った。



「ね、今日の放課後、高桐先生のとこ行かない?」

「…いきたい」

「じゃあ、」

「でも、今日は無理かな。…用事、あるし」



…用事っていうか、“近寄るな”って言われてるし。

あたしのせいで、高桐先生の教師生活が断たれるのは絶対に嫌だ。

ちゃんと付き合うまでは、ちゃんと守りたい。

あたしはそう思いながら、心苦しくも市川の誘いを断る。

いつもだったら、こういう時…あたしが行かないと市川も行かないのが常だ。

しかし今日は…あたしが断ると、市川が言った。



「…そっか。残念」

「…」

「じゃあ今日は先生独り占めしちゃお、」

「!」



市川はそう言うと…



「負けないって言ったでしょ?」



と、あたしに向かって勝気に笑った。


…こんなんじゃ…

このままじゃ…本当にいつか先生奪われちゃいそう…。


…先生のことは、信じてるけど…。

このラインの送り主が、どこで見てるのかわからない…から。

今は…高桐先生の傍に行くことは…出来ない。
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