高桐先生はビターが嫌い。
…………


そして、その放課後。

SHRが終わって、何気なく教室の後ろを見ると。

このクラスの副担任である高桐先生が、他の女子生徒達と楽しそうに話している姿が視界に入ってきた。

そんな先生に、あたしは一昨日…あらかじめラインをしていて。

“わけあって、しばらく一緒に晩ごはんを食べられそうにないです”と。

だから今日も、独りぼっちの夕飯になるんだけど…。

やっぱり、高桐先生がいないと…寂しい。



「ね、せんせぇー。今日の数学のね、ここわかんなぁーい」

「あ、あたしも!」

「え、どこ?…あー、これね!」

「先生、今日個人授業して?」



女子生徒はそう言うと、何のためらいもなく高桐先生の腕にしがみついて、ぴったりと体を寄せる。

…そんな姿が、面白くないから。あたしは、見ないフリ。聞かないフリ。

だけどその間にも、女子達の甘えたような声は聞こえてくる。



「ね、先生って、後藤先生と住んでるってマジなの?」

「ん?あ、それ本当だよ。しの…後藤先生から聞いた?」

「うん。あたしも先生の家行ってみたーい!」



そう言って、何とまあかわいい笑顔で。高桐先生を見上げるから。

あたしは思わず、遠くから見て…少し口を、膨らませる。

しかし、あたしがそうやっていると…



「っ、!」



その時…ばしっと。

突然、頭に軽い衝撃が走って。

ビックリして後ろを振り向けば…そこにはあたしと似たような表情をした市川が、立っていた。



「…市川」



ビックリした、急に。

誰かと思った。

そう思って、あたしが口を開くと…



「…ほんっと、面白くないよね、あれ」

「……高桐先生?」

「うん。しかも何か、先生嬉しそう」

「…」



その言葉に、あたしもまた…高桐先生の方に視線を戻したら。

その市川の言葉通り、先生は。

ニコニコと、女子生徒達と話しをしていた…。
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