高桐先生はビターが嫌い。

「帰ろ」



あたしが複雑な気持ちで高桐先生を見ていると、その時市川がそう言って教室を出ようとする。

そんな市川に、あたしは高桐先生から視線を離すと…その市川の姿を慌てて追いかけて。



「え、市川、高桐先生のとこ行くって…」



そう言って、市川の隣に並んだら、不満そうなまま市川が言う。



「…行く気失せた。今日はヤケ食いしたい」

「…太るよ?」

「うるさいっ」

「…まぁ、高桐先生…人気者だからね…」



そう言うと、あたしは。

思わずまた、今日で何十回…いや、何百回目かのため息を吐く。

その間にも、市川は生徒玄関に向かっていて。

…本気で、帰るらしい。

まぁその気持ちも…わからなくもないけど。


そう思いながら、あたしも一緒に、到着した生徒玄関で、靴を通学用のそれに履き替える。

そして、青天の空の下。

少しずつ暖かくなってきたそこに出ると、市川と隣に並んで一緒に帰りながら。

他愛のない、話をして。

お互いに、気分を変えようとしていたら…



「…あ、ちょっと待って」

「?」



その時。

校門の手前。

何かに気が付いたらしい市川が、ふいに歩く足を止めて、そう言った。



「…どうしたの?」



そんな市川に、あたしが頭の上に?を浮かべてそう聞けば。

市川が、さっきの校舎内とでは打って変わって、笑顔であたしに言う。



「っ…“彼”、来てるよ!」

「え、彼って…」

「日向の。ほら、コウマ君!」

「!」



その言葉に、また、校門に視線を戻したら。

その時に、やっと見つけた。

そこで、誰かを待っている…コウマ君の姿を。
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