高桐先生はビターが嫌い。
本当に大切な人。

******


慌ただしい放課後の職員室。

俺は一人、パソコンと向かい合う。

パソコンの画面に映し出されているのは、数学の問題が…たくさん。

そのパソコンの隣には、“高校の数学”と書かれた分厚い問題集や教科書が開いたまま積んである。



来月、校内は期末テスト。

今はそのための、準備中…だったりする。



「はー、」



しばらくパソコンと向かい合って、キリがいいところで一旦一息吐こうとパソコンから目を逸らす。

…疲れた。今すぐにでも日向さんに会いたい。いやさっきも教室で見かけたけど。

でも何か最近…なんとなく、避けられているような…そんな気、するんだよな。

なんでかな…。

俺はそう思いながら、不意にコーヒーを淹れに行こうとしたら…



「あー、ちょっと高桐先生」

「!…ハイ、」



その時ふと、日向さんのクラスの担任である佐藤先生に、呼びとめられた。

佐藤先生はいつも、来年俺がクラスの担任を受け持つことが出来るように、毎日丁寧に仕事を教えてくれる。

…憧れではあるけれど、もちろん大変だと思う。

俺が佐藤先生の声に反応すると、佐藤先生が俺のところにやって来て、言った。



「7月の、三者面談のことなんだけど」

「!」

「今、親御さん達に渡すプリントを作ったんだけど、今度これをクラス全員分コピーしたら、渡すから」

「ハイ、」

「…で、その前に…やっておかなきゃいけないことがあって」

「?」



佐藤先生は少し声のトーンを落とすと、話を続ける。



「この前も話してた、日向の親御さんのことなんだけどね」

「!」

「いつもこういうのは日向の親御さんにだけは仕事の都合で早めに郵便で送ってたんだけど、これはさすがに日向の将来が関係してるし、大事なことだから」

「ハイ、」

「今回は、直接会いに行って、渡したいんだけど…高桐先生、行ける?」

「!」
< 252 / 313 >

この作品をシェア

pagetop