高桐先生はビターが嫌い。
篠樹くんの言葉に、あたしは散々図星を突かれて…下を向く。

もうどう言えばいいのかわからない。

頷きたくないけど、何だか謝りたくもない。

だって、篠樹くんのその言葉には…一か所だけ、間違っていることがある、から。



「…あたしは…別に…」



…だけど。



「…いいよ。別れても」

「!」

「唯香が本当は陽太のことが好きなら、俺は諦める。コウマとか奈央ちゃんとか、周りも苦しい思いするくらいなら、その方がいい」

「…、」

「でも、一つだけ約束して。陽太のことはもちろん、奈央ちゃんは俺の夢だった教師として、初めて会った大事な生徒だから」

「!」

「これ以上は傷つけないで。俺も…黙って見守ることにした、から。あの2人のことは」



そう言うと、「じゃあな」と。

あたしの横を通り過ぎて…そのままその場を去って行く篠樹くん。

その姿に、あたしは振り向いて背中を見る…けど。

篠樹くんは…どんどん行っちゃう。

帰ってしまう。


呼びとめようと思ったら、呼びとめられる距離…ではあるけれど。



「…っ…」



篠樹くんが離れて行って、やっと、気が付いた。

今更だけど、あたしは…大変なことをしてしまっていたのかもしれない…。

篠樹くんが全部、知っていた…なんて…。


あたしはその場にしゃがみ込むと、夕方の空の下。

独り虚しく、泣き出した…。
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