高桐先生はビターが嫌い。
…………


薄暗くなった、空の下で。

マンションの庭のベンチ。

散々泣いたあと、座って待っていたら。

そこにようやく、陽ちゃんが帰って来た。



「…あれ。唯香?」

「!」

「何してんの、そんなところで」

「…」



陽ちゃんはいつもの調子であたしにそう声をかけると、ベンチに座ってうつ向いたままのあたしの傍まで歩みよって来る。

そんな彼に、あたしは本当に言おうか言うまいか…少し悩んだけれど、やがて意を決して言った。



「…座って、陽ちゃん。隣」

「え、なんで」

「いいから。ちょっとだけ、話があるの」

「…?」



あたしがそう言うと、陽ちゃんは言われるままにあたしの隣に腰を下ろす。

そして、本当にあたしの様子が気になるようで、「どした?」って聞くから。

あたしは、ゆっくり口を開く。



「…ごめんね。仕事帰りなのに」

「や、それは別にいいけど…もしかしてまた篠樹と喧嘩した?」

「…、」



あたしはそんな陽ちゃんの問いかけに、黙って首を横に振る。

そんなだから…。

そんな優しい陽ちゃんだから、あたしはキライで…大好き、だった。

大好きだったから、話し出した。



「あたし…ここ最近ずっと、奈央ちゃんに嫉妬してた」

「え、」

「陽ちゃんも篠樹くんも、ずっとあたしの友達で仲が良くて、恋愛もして…幸せだったから、毎日が。だけど奈央ちゃんが現れたことで、何だか陽ちゃんと篠樹くんを取られたような気が…してて」

「…」

「だから、嫉妬して…陽ちゃんと奈央ちゃんが、離れるように…いろんなこと、してた」

「!」
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