高桐先生はビターが嫌い。
…………


時計の音が妙に響く、独りの部屋。

隅にうずくまって、膝を抱えるあたしは…さっきの、コウマ君との会話を思い出していた。



『コウマ君…本当は別に、興味ないでしょ』

『?』

『…あたしのことは』



そもそも、合コンの時からいろいろ可笑しな点はあった。

会話をしていた時のセリフのような口調。

“付き合うかもって、思ったかな?”なんて言った不自然で不思議な言葉。

そのあと、“思ってないよ”って返事をしたあたしの言葉に、安心したような…嬉しそうな笑顔を浮かべていたコウマ君のあの表情。

“会いたい女のコには会えた”っていうセリフ。

あたしの学校のことしかしようとしない不自然な会話。

それに…“市川”の存在に気が付くと、あたしの手を慌てて離したあの行動…。

彼の今までのそんな行動は、全てあたしの為なんかじゃない。

市川のためにあったんだ。

あたしがコウマ君に本当のことを聞くと、コウマ君はちょっとビックリしたあと…やがて観念したように言ったんだ。



『…なんだ。もうバレたの。早い。っつかごめんね』

『いや、別にそれは構わないけど…何で、』

『君、奈央ちゃん。狙われてるよ』

『え、』

『唯香さん。知ってるでしょ』



あたしはその言葉を思い出すと、思わず顔を伏せる。



『気を付けて。いま、奈央ちゃんに嫌がらせしてるの、唯香さんだから』



コウマ君はハッキリそう言うと、『俺は奈央ちゃんを誘惑しろって命令された側だから』と言って申し訳ない顔を、していた。

だからコウマ君は、本当は良い人…なんだと思う。

その後は、コウマ君の本当の好きな人がやっぱり市川だってわかって、「頑張ってね」なんて…応援の言葉をかけて、別れたけど…。

友達の恋の発展は、すごく嬉しいんだけど…。
< 259 / 313 >

この作品をシェア

pagetop