高桐先生はビターが嫌い。

「ダメ。風邪引いちゃう」

「!」



高桐先生はそう言って、不意にあたしの肩に、自身が羽織っていたパーカーをかけてくれる。

…あ。あったかい。

けど、ふいに隣を見ると、高桐先生が半袖だったから、思わずビックリしてしまって。



「えっあ…ダメだよ、高桐くんこそ風邪引いちゃう!」

「俺は大丈夫。アイリちゃん着ててよ」

「いやいや悪いって!」

「平気だから。俺バカだし風邪ひかない」

「…なにそれ、」



高桐先生のそんな言葉に、あたしは思わず少し吹き出す。

そんな話をしているうちにマンションにはすぐに到着して、あたしは借りていたパーカーを高桐先生に返した。



「…ありがとう。…ございます」

「え、なに。なんでいきなり敬語?別にいいけど、」

「ふふ、なんとなく」



あたしの言葉に、高桐先生は少し笑いながらそう言って、あたしからパーカーを受け取る。

そしてお互い、「じゃあね」と部屋に戻ろうとドアを開けたけれど…



「……あ、あのっ…」

「…うん?」



やっぱり、と気になって。

いてもたってもいられなくて、あたしは。

その背中が見えなくなる前に、引き留めた。



「どした?」
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