高桐先生はビターが嫌い。

「…ショックだなぁ…」



でもやっぱり、あたしが今一番心に引っかかっているのは、唯香さんのことで。

確かに、第一印象はちょっと苦手意識はあった…気がするけど。

だけど良い人なんだって、思ってた…のに。

このラインとか…嫌がらせをしていたのは、唯香さん…だったなんて…。

確かにあの時…合コンの帰り、感じたあの甘い香りはよくよく考えたら唯香さんの香水、だけどさぁ。



「…はぁ」



そう思いながら、あたしは本当にショックすぎて。

もう何度目かわからないため息を吐く。

やっぱり唯香さんは…まだ、高桐先生のことが…好きなんだ。

好きだから、たまに呼び出して…逢ったり、してたんだ…。

でもそれなのに、あたしがいたから…邪魔、だったのかもしれない…。

…次、唯香さんと出会ったら。

いったいどんな顔をして会ったらいいんだろう…。


…しかし。

あたしがそう思っていると…



「…!」



不意にその時、玄関でチャイムが鳴って。

あたしは、うつ向かせていた顔を上げる。

…誰だろ。

もし、唯香さんだったら…。

あたしはそんなことを思いながら、出ようかどうか迷っているうちに…再び玄関でチャイムが鳴るから。

目に浮かんでいる小さな涙を拭いて、玄関まで足を運ばせる。

玄関に置いてある鏡で自分の顔を軽くチェックすると、あたしは思い切って玄関のドアを開けた。



「…はい?」

「あ、日向さん」

「!…先生っ…」



だけど、ドアを開けると…そこに立っていたのは、高桐先生で。

今日は夕飯の約束をしていないから、まさか来てくれるなんて思っていなかったから。

でも少しの間避けていたし…でなんて言って迎え入れればいいのか、迷っていたら…。



「っ…ごめん、」

「!」



高桐先生は、中に入ってドアを閉めるなり、そう言ってあたしを抱き寄せてきた。
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