高桐先生はビターが嫌い。









…………


昼間、しっかりしめたはずのスーツのネクタイが、いつのまにか曲がっている。

今日は、前に佐藤先生から言われていた「日向さんのお父さんに三者面談の話をしに行く日」。

いや、正しくはもう「行ってきた」。

今はその帰り…だから。

でも…帰り道の俺の視界は、まるでモノクロになっていて。

いや、本当はちゃんと見えているんだろうけど…

あまりにも、いきなりすぎる…から。



「ただいま…」

「あ、おかえり陽太。なに、遅かったじゃん今日」

「…」



ようやくマンションに帰ったのは、夜の9時半ごろ。

本当はもっと、早く終わっていたけど…なかなか帰れなかった。

帰る気になれなかった。

今日は日向さんとの夕飯も断ってしまうほどに。



「…どした?」

「…」



そして…いつもと様子が違う、まるで表情からして無い俺に、篠樹が心配そうに声をかけてくる。

その問いかけに、俺はため息とともに…曲がっていたネクタイをほどいて…それをソファーの上に置いた。

置いた直後、篠樹に言った。



「今日…日向さんのお父さんに…会って、三者面談の話をしてきたんだけど」

「おお、どうだった?っつか佐藤先生に連絡した?ちゃんと」

「いや、まだしてない」

「え、何してんの」



そう言うと、しなきゃダメじゃん。待ってるだろ、と。

真剣に、俺にそう言うそいつ。

だけど、俺はその言葉をスル―して、ゆっくり口を開いた。



「…会えた、けどさ。ちゃんと」

「ん?」

「でも、こんなことってある?」

「…?」


「日向さん……奈央、が…




来月、海外に引っ越すって…」









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