高桐先生はビターが嫌い。
そんなあたしの声に一方の高桐先生は、ひょこ、とドアから顔を覗かせる。
「…あの、えと…」
「?」
…言ってしまおうか。
そう思ったから、引き留めてしまった。
あたしの事実を、今ここで話してしまおうか、と。
だけど。
「…~っ、」
気がつけばまた、不安が募って。
さっきから高桐先生が、不思議そうにじっとあたしを見つめてくるから。
その目が、あまりにも優しいから。
いま言ってしまったら、どうなるんだろう…。
そう思ったら、やっぱり…………言えなかった。
だからあたしは、代わりに違う言葉を口にした。
「っ…ご、後藤…くん!」
「え…後藤?」
「うん!後藤くんに、よろしくね!」
あたしは咄嗟にそう言うと、
「じゃあ、おやすみなさいっ」
最後に、その言葉を付け加えて、逃げるように部屋に入った…。