高桐先生はビターが嫌い。
******
「…ただいまぁ」
「おー、おかえり」
もうだいぶ片付いたリビングで、パソコンをしていると。
その時コンビニに行っていた陽太が、ようやく帰って来た。
実はさっき、俺達は急にアイスが食べたくなって、でも買いに行くのがめんどくさくて。
じゃんけんをしたら、負けた陽太がコンビニに買いに行ってくれていたのだ。
俺はパソコンの画面から陽太に顔を上げると、その待ちに待ったコンビニの袋に手を伸ばした。
「チョコミントあった?」
「うん」
「ありがと。っつかどんだけアイス買ってんの」
「や、ついでだし買いだめしとこうと思って」
陽太はそう言いながら、「はぁ…」とため息まじりにダイニングの椅子に座る。
そこは、俺がパソコンをしている向かいの席。
俺は、カップ式のチョコミントアイスの蓋をあけながら、そんな陽太に言った。
「…なに、コンビニ行って疲れた?っつか他のアイス溶ける。早く冷凍庫入れて」
「んー…待って。っつか、そんなんじゃないけど」
「じゃ何。煮え切らないね」
俺がそう言って、アイスを一口、口にすると。
陽太が、ゆっくり椅子から立ち上がって言った。
「さっき、コンビニの帰りに偶然アイリちゃんに会った」
「おお、良かったじゃん」
「うん。会えたことは単純に嬉しかったんだけどね」
「?…どしたよ」
「別れ際に、なんか………“後藤くんによろしく”って、言われた」
陽太はそう言いながら、ようやく他のアイスを冷凍庫に保存する。
一方、そんなことを言われた俺は、普通の返事しかできなくて。
それがどうかしたかと聞くと、昔から弱虫なそいつは、不安げに俺に言った。
「…よろしくって何?ってか、俺それ言われた時、アイリちゃんめっちゃ言いにくそうにしてたよ。やばい」
「いやいや、何、やばいって。別に普通じゃね?お前とたまたま出会したから、ついでに俺にも、ってことだろ」