高桐先生はビターが嫌い。

******


そして、その翌朝。

出発当日。

お父さんとの約束通り、早朝に。

マンションの部屋の前の通路で、高桐先生や後藤先生に見送られるあたし。



「…ホントに行っちゃうんだな」



忘れ物が無いか、確認するあたしに後藤先生が寂しそうにそう言う。

下の駐車場には、もう既にお父さんが迎えに来ていて。

そんな言葉を発する後藤先生に、高桐先生が言った。



「だから、ずっとそう言ってたじゃん」

「でも早いなー、時間経つの」



そう言うと、「元気でね、奈央ちゃん」と。

それでも笑顔で手を振ってくれるから。

あたしもそんな後藤先生の言葉に頷いて、手を振り返す。

そして、一方の高桐先生は…



「ほら、お前も見送れっ」

「……」



後藤先生にそう言われて、高桐先生が黙ってあたしの目の前までやって来て。

…若干、お互いに目が腫れているような。

しかもあんなに泣いたのに、まだ泣き足りないのか…やっぱり寂しそうな、なんとも言えない高桐先生を目の前にすると、あたしはまた涙が込み上げてきてしまう。

…けど、決めたから。

それに、高桐先生が言っていたように、あたしも、また先生たちに会えるんじゃないかって信じてる。



「…先生、また会いましょうね」

「…ん」

「約束、」



そう言って、お互いに指切りをする。

だけど、指を離そうとしたその瞬間…



「奈央、」

「?」



不意に、名前を呼ばれて…顔を上げれば。

高桐先生の顔が、近づいてきて。

そう思ったその瞬間…



「…!」



柔らかい唇が、重なった。
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