高桐先生はビターが嫌い。
…まさか、高桐先生がここでキスをしてくれるなんて思わなくて。

これがキスだとはっきりわかるまで、そんなに時間はかからなかったけど。

数秒くらい、重なったままで。

高桐先生のいきなりの行動に、ビックリする後藤先生の隣で。

ふっと唇が離れたと思ったら…今度は、ぎゅっと抱きしめられた。



「…好きだよ、奈央」

「先生…」

「俺、これからも奈央が好きだから」



また会えたら、その時も一緒にいよう。

そう言って、耳元で囁いて。

あたしも、その背中に両腕を回す。



「…先生、あたしも」

「!」

「あたしもずっと、先生のことが好き」



そう言ったあと、やがて体を離して。

最後に、高桐先生にも手を振る。

泣きそうになるのを、まだ堪えて。

2人に背を向けたあと、あたしはようやくその場を離れた…。


…………



「忘れ物はない?奈央」

「うん」



その後。

お父さんが待ってくれている駐車場に行くと、そこにはエンジンをかけたままお父さんが待ってくれていて。

車の扉を開けた瞬間、冷房の涼しい風が体を包む。

外は暑すぎたから、凄く気持ちがいい。

すると助手席でシートベルトを締めるあたしに、お父さんが言った。



「お別れは?もうしてきたの?」

「うん。後藤先生と高桐先生が、見送ってくれたよ」

「そっか…高桐先生が、」

「…、」



あたしがそう言うと、お父さんが早速車を走らせようとする。

あ…そういえば、お父さんって高桐先生と一回会ってるんだっけ。

あたしがそう思っていたら、お父さんが言った。
< 285 / 313 >

この作品をシェア

pagetop