高桐先生はビターが嫌い。
「高桐先生は…たぶん、奈央のことが凄く大事なんだね」
「え、」
「目を見て、話しを聞いていたら…この前、凄くそう思ったよ」
お父さんはあたしにそう話しながら、やがてこのマンションの敷地内を後にして…
早朝の道路を、空港に向かって走らせる。
その言葉に、疑問を浮かべるあたしは…
「何で…?」
思わず、そう問いかけた。
すると、運転しながらお父さんが言う。
「あの時…社長室にやって来た高桐先生の表情…雰囲気が、」
「?」
「昔、初めて母さんの実家に挨拶に行った時の俺と、全く一緒な感じがしたからね」
「!」
こっちにも緊張がモロに伝わって来て、いや面白かったよ。
お父さんはそう言うと、クスクスとその時のことを思い出しながら笑って。
その言葉にあたしが少し驚いていると、お父さんがそんなあたしに何かを感じ取ったのか…そのあと言った。
「…まぁ、向こうの…シンガポールには、何も一生住むわけじゃないから」
「!」
「せめて3年はいなきゃいけないけど、その期間が過ぎて、帰りたかったらいつでも言うといい」
「…、」
「その時は、また一緒に日本に帰ろう、」
お父さんはそう言うと、優しくあたしの頭を撫でるから。
あたしはその言葉が嬉しくて「うん!」と頷いた。
待っててね、先生。
また絶対、会いに行くから────…。