高桐先生はビターが嫌い。

俺がそう言っても、「そうかな…」と悩んで見せるそいつ。

まぁそれか……この前アイリちゃんと二人でコンビニに行った時、打ち明けられた“秘密の話”が関係してるのかな。わからないけど。

俺はその時のことを思い出すと、無言で陽太に目を遣る。

すると陽太は、再びダイニングの俺の向かいの椅子に腰を下ろしながら、言った。



「それにさ、アイリちゃん本人にはさすがに聞けなかったけど、今日のアイリちゃんめちゃくちゃオシャレだったわけ」

「めちゃくちゃって、そりゃあアイリちゃんだってオシャレくらいするだろ」

「じゃなくて、それはそうなんだけど。…なんか、すごい可愛いワンピース着てた。あれもう絶対デートだよね」



陽太は勝手に決めつけてそう言うと、「はあ…」と盛大なため息とともにダイニングに項垂れる。

デートだよねって、俺は見てないからわからないけど。

…っつか、そのため息はやめてくれ。なんか空気が重たくなる。


俺はそう思うと、陽太に言った。

この前、アイリちゃんから聞かされた話を思い出して。



「…まぁ、アイリちゃん可愛いからな」

「っ、でしょ!?俺、合コンで初めて会った時ビックリしたって!」

「けどな、陽太」

「…?」



俺は、陽太の興奮をおさえるように陽太の名前を言うと。

パソコンから視線を外して、目の前の陽太に言った。



「悪いことは言わない」

「?」

「アイリちゃんだけはやめておけ」
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