高桐先生はビターが嫌い。
「?…どしたの、篠樹。怖い顔して」
「どしたの、じゃねぇよ!奈央ちゃんとデートって、お前何考えてんの」
「何って、デートはデートでしょ。日向さんが“遊園地に行きたい”って言うから」
「いや、そうじゃなくて!」
俺の必死な引き止めに、完全に頭の上に?を浮かべている一方の陽太。
もしかしてコイツの頭の中には、教師と生徒の恋愛はマズイっていう概念がそもそも無いのか。
俺は陽太を心配して言ってるのに、それを知らない陽太はもう行く気満々だし。
万が一学校の誰かに見つかったら問題になるのに、今俺の目の前にいるそいつは、そんなことは知ったこっちゃなさそう。
どうにかして引き止めるテはないのか…。
そう考えているうちに、やがて時間がきてしまったみたいで。
「…あ、俺そろそろ出なきゃ」
「!」
「じゃあ行ってくんね」
そいつは俺の気も知らないでそう言うと、部屋を出ていこうとする。
…けど。
「ちょい待ち!」
「…何だよ」
俺はそんな陽太を即座に引き留めると、そいつに言う。
「お前忘れたの?」
「…何が」
「俺、この前お前に言ったじゃん。“アイリちゃんはやめておけ”って」
「!」
俺はそう言うと、なんとか陽太を行かせたくなくて、部屋のドアをパタン、と閉める。
その言葉は、俺達が教師として働く直前に、俺が陽太に言った言葉。
そんな俺に、一方の陽太は少し目を見開いて…。
けど少し考えると、言った。
「………そういえばそんなことも言ってたね」
「だろ?だから、」
「けど、悪いけどそれは聞けないよ」
「…は?」
俺が日向さんの傍にいるって、約束したし。
陽太は俺にそう言うと、屈託のない笑みを浮かべて、今度こそ「じゃあね」と部屋を出て行ってしまう。
しかも陽太のその言葉に、俺はそれ以上引き留めるような言葉が出てこなくて。
後々どうなるか…考えただけでもヤバそうなのに、アイツは何で平気なんだろうか。
それ以上好きになるなよ、なんて。
いくら唱えてみても、無駄なのかもしれない。
……俺も、奈央ちゃんが抱えている“何か”を知ったら、陽太みたいに周りとか気にしなくなるのかな……。
『おわり』