高桐先生はビターが嫌い。
市川にそう言われて助手席に乗ると、ふわりと甘い香りに包まれる。
車の中は邦楽が流れているから、改めて日本に帰って来たんだと実感した。
「先に家行くでしょ?日向、家どこ?前と同じマンション?」
「うん。前のところでいいかなぁと思って、あえて同じにしたの。それに…」
「……それに?」
「……ううん、やっぱいいや」
「?」
…また、高桐先生とお隣同士で住みたくて。
あたしはそう思うと、横で車を走らせる市川に、ふと思い出して聞いてみた。
「あ、そだ。市川、そう言えばコウ君?だっけ。あれからどうなの?まだ付き合ってるの?」
「コウ…?ああ、コウマね。うん、まだ付き合ってるよ。今遠距離だけどね」
「あ、コウマ君だっけ。え、遠距離なんだ」
「うん、向こうも公務員だから、転勤とかあって」
「なるほど」
コウマ君は確か、高校の時に市川に惚れて付き合いだした市川の彼氏だ。
あれから二人の関係が気になってたんだけど、上手くいってるみたいでよかった。
あたしは少し考えると、窓の外の景色を見ながら何気なくまた市川に聞いてみた。
「…ねぇ、市川」
「うん?」