高桐先生はビターが嫌い。
「高桐先生とかって、最近どうしてるか知ってる?」
「…え、先生?」
あたしがそう聞くと、市川は。
そう呟いて、独り「うーん…」と考えだす。
卒業してからは全く会ってないからなぁ、と。
…やっぱり、そうだよね。
あたしがその言葉にそう思っていると、運転しながら市川が言った。
「ていうか懐かしいね、高桐先生。日向がシンガポール行っちゃってから、先生しばらくもぬけの殻だったんだよ」
「!!…えっ、」
「日向がいなくなって突然元気なくなるから、先生って実は日向のこと好きだったんじゃないかって噂まで流れて。
しかも先生、生徒に直接それ聞かれても全っ然否定しないの。ウケない?」
「…、」
あの頃の高桐先生はかわいかったな、と。
市川は可笑しそうに笑うけど…でも、高桐先生…そうだったんだ。
シンガポールに行きたいって言ったのはあたしだけど、そういうことを聞いたら、何だか少し申し訳なくなってしまう。
早く会いたいな…先生。
あたしがしばらくそう思いながら、車に揺られ続けていると…やがて市川が懐かしい場所に車を停めて言った。
「着いたよ」
「!」