高桐先生はビターが嫌い。

市川が持ってくれているのは、あたしがシンガポールを出る前に買ったものや、日本の空港で買ったものだ。

自分自身の買い物とか、高桐先生へのお土産とか、高桐先生へのお土産とか、高桐先生へのお土産とかっ…!

あたしは心を躍らせながら、やがて市川と一緒にエレベーターに乗る。

もう何もかもが懐かしすぎる!



「…最上階だったの、日向の部屋って」

「そう。景色とか凄い奇麗だよ」

「さっすが。高級なマンションって感じするよね~」



市川とそんな会話をしながら、しばらくしてやっと到着した最上階。

エレベーターの扉が開いて、そこに一歩足を踏み出してみれば。

久しぶりに目で見ているものや景色が、“あの頃”の記憶を次々と蘇らせる。



『日向さん、』

『…やっぱさ……結構待つな』

『え、なに。なんでいきなり敬語?』

『何で、日向さんは…そんなことしてるの?』

『俺、これからも奈央が好きだから』


「…っ、」



…先生。

あたしは高桐先生との色んな記憶を辿りながら、市川と一緒に通路を渡っていく。

記憶を辿るたび、いつもそう。いつも、先生に会いたくなる。

けど今日は、もうすぐ近くにいるから。

あたしはそう思うと、自分の部屋に入る前に、隣の部屋のドアの前に立った。



「…日向?部屋違くない?」

「ううん、あってる」

「え、でも」

「いいからいいから」

「?」
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