高桐先生はビターが嫌い。
明らかに部屋番が違うドアの前に立つあたしに、不安になったらしい市川がそう言うけれど、あたしは今すぐにでも高桐先生に会いたいから。
あたしが目の前に立っているドアの向こうは、4年前に高桐先生と後藤先生が二人で住んでいた部屋だ。
あたしは独り小さく深呼吸をすると、やがてそのチャイムを鳴らした。
「…ね、日向その部屋の人って」
「しっ。静かに、」
そして、あたしが市川に、人差し指を自身の口元にあててそう言っていると…
「はーい?」
「!!」
しかし…その時、ドアの向こうから。
聞きなれない女の人の声が、した。
………え?
「はいはい……ううん?どちら様?」
「!」
そして、あたし達の前に姿を現したのは。
これまた、全く見慣れない知らない女性。
でもまだ若い。あたしと市川よりかは年上っぽいけど。
あたしはその人と目が合うと、思わず動揺を隠せなくて言った。
「あ、あれ…?ここに住んでる方って…」
「ええ。この部屋の住人はあたしだけど。っていうかほんとどちら様かしら?…見慣れない顔ね」
「…??」
その人の言葉に、あたしは「もしかして部屋を間違えたのか」ともう一度部屋番を確認してみる。
…でも、間違えてはいない。この部屋は確かに高桐先生と後藤先生の部屋だ。
しかも、一か月前に送った手紙も同じ宛先で出したし、無事に届いた…はず。
返事もらってないから確信できないけど。
でも、だからといってこの女の人が嘘をついているようには見えないし…。
あたしはやがて意を決すと、その女の人に聞いてみた。
「あ、あの、高桐陽太って方…知ってますか?」