高桐先生はビターが嫌い。

ふいにそう言われて、窓越しに見えた懐かしい建物。

そこには市川の言う通り、確かにあたしが通っていた高校があって。

その建物にももちろん懐かしさを覚えたあたしは、嬉しくてすぐに車から降りる。



「!!…え、ヤバイ懐かしい!」

「そりゃあね。4年ぶりだから。ってかあたしも懐かしいわ」

「ね、早く行こ!」



あたしはそう言うと、すぐに市川の手を引いて校内へと向かっていく。

職員玄関の近くまで到着すると、そこには懐かしい用務員さんの姿があって、あたし達と目が合うと快く中まで案内してくれた。



「…今日は土曜日だから授業ないしね。職員室だったら先生たちもいっぱいいるよ」

「!」

「え、ほんと!?…じゃあさ、高桐先生もいる!?」



そしてそんな用務員さんの言葉に、あたしの代わりに市川がそう聞いてくれる。

…しかし、その答えは…



「たか…あー、高桐先生ね。あの先生なら、今年の春に異動になったから、今はいないよ」

「!」



…と、やっぱり…異動になっていた。

その言葉を聞くと、だいたい予想はできていたけれど、落ち込んでしまうあたし。

するとそんなあたしの様子に気が付いていない用務員さんが、言葉を続ける。



「確か高桐先生、隣町の女子高に異動になってね。まぁまだ若いしこれからだから、いろんなところで頑張ってもらわないと」

「じょ、女子高…」



…何それ。よりによって女子高に異動になったとか、そんなことがあっていいの?

そんな用務員さんの言葉を聞いて、市川が「…どうする?」と聞いてきたけれど、とりあえずは職員室くらい顔を出しておこう。

そう思って、口を開くと…



「っ…あれ、奈央ちゃん!?」
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