高桐先生はビターが嫌い。
良かった……とりあえずはひと安心だ。
あたしはドアの前の景色にそう思うと、久しぶりの制服を身に纏い、独りようやく外に出る。
鍵をかけて、マンションの通路を渡ってエレベーターに向かうけど、その途中もやっぱり不安は増していって。
…ああ、こんなことになるなら、事前に高桐先生に言って、謝ればよかったな。
そんなことを今更思ってしまうけど……もう遅い。
できれば卒業まで気づかれませんように!
しかし、
そう思っていると…
「…やっぱさ、最上階だとエレベーター結構待つな」
「な。この間がつれぇ」
「…!?」
その時。
エレベーター付近から、ふいに聞き覚えのある声がして…
あたしはその声に、ビックリして歩く足を止めた。
「…っ」
この声って、もしかして…
いや、もしかしなくても……
「もう2つくらいエレベーター欲しくね?」
「あー、そだな」
高桐先生と、後藤先生の声だよね!?
あたしはその声に気がつくと、物陰から静かに二人を覗く。
するとそこには、エレベーターを並んで待つ二人の姿があって…。
……あ。今までは最上階に住んでるのって、あたしだけだったから気づかなかったけど。
よくよく考えてみたら、部屋を出て安心していても、まだエレベーターというものがあったなんて…。
「はあぁ…」
あたし…バカ。
しかし、そう思って、深いため息を吐くと…
「…?」
「…どした?篠樹」