高桐先生はビターが嫌い。

******


「何なのこれは」

「…」



翌日。

学校に行くと、春休み直前だというのに地獄が待っていた。

昼休みの職員室。

提出済の英語の問題集を広げられ、英語の担当をしている女の先生は難しい顔をしてあたしを見ている。


問題集の中には、「消えろ」「ウザイ」等の卑劣な言葉が英語の問題や回答をかき消していて。

…これで呼び出されたのはもう何回目…いや、何百回目だろうか。

実は英語の問題集、だけじゃない。


あたしはその卑劣な文字から目を逸らすと、目の前の先生に言った。



「…間違ってましたか、答え」



しかしあたしがそう言うと、先生はため息まじりに言う。



「じゃなくて。そもそもこれじゃあ回答どころか問題すら読めないでしょ」

「…」

「誰にやられたの」



そう言って、本当に心配そうに、あたしの顔を覗き込む先生。

まだ若い女の先生。男子生徒にそこそこ人気がある。

その優しさに好きになりそう。…じゃなくて。



「…自分でやりました」

「そういう嘘はいらないから、」

「……犯人なんてわかりません」

「これだけ何度もやれられておいて?」

「…、」



先生がそう言うと、次の瞬間、その話を聞いていた国語の先生が不意にあたしに言う。

30代の、ちょっと厳しいと生徒に恐れられている男の先生だ。

あたしのクラスの国語の担当もしている。



「日向。お前な、嘘は吐いてもいいけど、良い嘘だけにしろよ」

「…」

「仕返しが怖いから犯人を言わないんだろうが。何でもかんでも独りで抱え込むのは意外とみっともないんだぞ」

< 5 / 313 >

この作品をシェア

pagetop